著者の羽生善治氏については語るまでもないでしょう。96年に「将棋界始まって以来の7冠達成者」として一世を風靡した方ですから。
本書のテーマは「決断力」です。将棋は「勝つためにどうすれば良いのか一手一手考え決断していく」プロセスを含むわけですから、プロ棋士の中でもトップクラスの実力者である羽生氏は、ずば抜けた「勝つための決断力」の持ち主だと言えます。「決断力」というテーマにうってつけの人選だと思います。
勝負の場ではどのように決断すべきなのか、「決断力」はどのように訓練すべきなのか、「決断力」は訓練不可能な才能なのか。こういったテーマについて興味のある方はもちろん、羽生善治という棋士に興味がある方にもおすすめできる一冊です。
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【目次】
はじめに
第一章 勝機は誰にでもある
1 勝負の土壇場では、精神力が勝敗を分ける
2 勝負どころではごちゃごちゃ考えるな。単純に、簡単に考えろ!
3 知識は、「知恵」に変えてこそ自分の力になる
4 経験は、時としてネガティブな選択のもとにもなる
5 勝負では、自分から危険なところに踏み込む勇気が必要である
6 勝負では、「これでよし」と消極的な姿勢になることが一番怖い
7 勝負には周りからの信用が大切だ。期待の風が後押ししてくれる
第二章 直感の七割は正しい
1 プロの棋士でも、十手先の局面を想定することはできない
2 データや前例に頼ると、自分の力で必死に閃こうとしなくなる
3 一回一回の対局には、新たな航海に乗り出す充実感と新しい発見がある
4 決断は、怖くても前に進もうという勇気が試される
5 最先端の将棋は、集中から拡散へと進歩している
6 常識を疑うことから、新しい考え方やアイデアが生まれる
7 事前の研究が万全な人は、私にとって手強い人だ
第三章 勝負に生かす「集中力」
1 深い集中力は、海に深く潜るステップと同じように得られる
2 集中力を発揮するには、頭の中に空白の時間をつくることも必要である
3 人間は、どんなに訓練を積んでもミスは避けられない
4 私が対戦する相手はいつも絶好調で、やる気を引き出してくれる
5 プロの将棋は、一手の差が逆転できる想定の範囲内である
6 感情のコントロールができることが、実力につながる
7 わき上がる闘争心があるかぎりは、私は現役を続けたい
第四章 「選ぶ」情報、「捨てる」情報
1 パソコンで勉強したからといって、将棋は強くなれない
2 最先端の将棋を避けると、勝負から逃げることになってしまう
3 私は、あえて相手の得意な戦型に挑戦したいと思っている
4 創意工夫の中からこそ、現状打破の道は見えてくる
5 将棋は駒を通しての対話である。お互いの一手一手に嘘はない
6 将棋上達法――近道思考で手に入れたものはメッキが剥げやすい
7 スポーツ観戦の七割は趣味だが、三割は将棋に役立つ
8 コンピュータの強さは、人間の強さとは異質なものだ
第五章 才能とは、継続できる情熱である
1 才能とは、同じ情熱、気力、モチベーションを持続することである
2 子どもは「できた!」という喜びが、次の目標へのエネルギー源になる
3 「真似」から「理解する」へのステップが創造力を培う
4 「これでいい」という勉強法も、時代の進歩によって通用しなくなる
5 プロらしさとは、力を瞬間的にではなく、持続できることだ
6 将棋の歴史には、日本が世界に誇れる知恵の遺産がある
【内容紹介】
・重要な局面を左右するのは精神力
⇒予想通りに進まなくても、意表をつかれても、ひたすら平常心
⇒不利な局面で怯むと目や心が曇り、勝機があっても掴めなくなってしまう
⇒不利な局面でも諦めずに、粘り強く淡々と指していくことが、逆転に必要な直感や閃きを導き出す!
・Kiss("Keep it simple, stupid")アプローチ
ごちゃごちゃ考えず単純にやる
=固定観念やしがらみにとらわれず、物事を簡単に、単純に考える
⇒複雑な局面に立ち向かうときには、まず簡単・単純に考えることから可能性が広がる!
・知識を「知恵」にする
バラバラな知識では決断の役に立たない
⇒方向性やプランに基づいて、バラバラな知識を連結するのが知恵
⇒経験を積み、知識を「知恵」に昇華させると、一つの場面で正確な判断を下すための基準(ツボ)が瞬時に見えてくる
⇒何かを「覚える」ことよりも、それを実行して経験を積み「知恵」とすることが大切!
・経験の「いい結果」と「悪い結果」
経験による選択肢の増加
⇒「似たようなことをやって失敗した(悪い結果が起きた)」という負の感情が思考を縛る
⇒負の感情をコントロールする力を成長させなければ、経験を活かし切ることができない!
・直観
=脳の無意識の領域に詰め込まれた経験から浮かび上がってくるもの。直観が、現在の状況を瞬時に判断する力の基盤となる
⇒直感力の元になるのは感性。
⇒感性は、読書をしたり、音楽を聴いたり、人と会ったり……という様々な刺激によって総合的に研ぎ澄まされていく
・決断とリスク
決断し挑戦していかなければ、結果がわからない=進歩がなく、取り残される
⇒リスクを避けると、進歩がないという大きな不利益を被る!
⇒「積極的にリスクを負うことは、未来のリスクを最小限にする」
【感想】
主に前半部分を紹介しました。将棋の経験がうまく普遍化され、射程の広いものになっていると思います。なかでも「積極的にリスクを負うことは、未来のリスクを最小限にする」という言葉が心に響きました。リスクを恐れて変わることができない私でも、この言葉を聞くと未知の分野に挑戦する勇気が湧いてきます。座右の銘にしようと思います。
その他に面白いと思ったのは、知識だけでは役に立たない、経験を積むことで知識を連結し「知恵」に昇華させることが大切だ、というくだり。羽生氏はこれを「すべてに当てはまる思考の原点」としています。先日紹介した『記憶力を強くする』(記事はこちら)によれば、事象同士を連結する=理解することの大切さを説き、単純暗記の不毛さを指摘していたので、「おっ」と思いました。シンクロにシティー?
また、紹介しなかった部分になるのですが、「才能とは一瞬のきらめきではなく、十年も二十年も継続して同じ情熱を傾けられること」という趣旨の箇所はとりわけ印象的でした。少なくとも将棋界では、一つの場面でパッと発想が閃く人よりも、同じスタンスで将棋に取り組み確実に結果を残していく人の方が、結果として上に来るそうです。これは一般的なイメージとは正反対ですよね。「閃き」の不足と「才能」の有無がイコールではないとすれば、勇気付けられる人がたくさんいると思います。そういった意味でも、ぜひ多くの人に読んでもらいたい一冊です。



