池谷氏は以前ご紹介したように(過去記事参照)、記憶に関する第一人者です。糸井氏については説明不要でしょう。スタジオジブリや西武百貨店などのコピーを手がけ、コピーライターという職業を世間に認知させた方です。
池谷氏のユニークでわかりやすい説明を、糸井氏が独特のアプローチで縦横無尽に広げていく本書は、話し手と聞き手がはっきり分かれがちな通常の対談本とは一線を画しています。
「もの忘れは老化のせいではない」「30歳を過ぎてから頭は爆発的によくなる」など、常識を覆す目からウロコの主張が盛りだくさん。勇気付けられること請け合いです。
新潮文庫版では追加対談まで付いており、非常にコストパフォーマンスの高い一冊となっています。
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【目次】
第一章 脳の導火線
第一章のはじめに
生きることに慣れてはいけない
頭のいい人って、自分の好きな人のことかも?
一流と言われる人は、実は案外「おしゃべり」だぞ
ストッパーをはずすと可能性がひろがる
刺激があるから生きられる
つながりを発見する能力
三十歳の誕生日は人生の縮図
脳の九八%は眠っている
人間は眼に頼る
脳は死ぬまで休まない
はじめての体験
自分に都合のいいように解釈をする脳
盲点を体感できる実験、お見せします
第一章のまとめ
第二章 海馬は増える
第二章のはじめに
脳は「べき乗」で発展
科学者が海馬に惹かれる理由
海馬があるから人間でいられる
人間はいちどに七つのことしか覚えられない
ウソをつくのが脳の本性
何歳になっても海馬の神経細胞は増えている
脳は毎日が面白いかどうかに反応
「かわいい子には旅をさせよ」
ハリウッドは血の入れ換えで成長した
クリエイティブは、脳への挑戦
悩みを解決するコツ
第二章のまとめ
第三章 脳に効く薬
第三章のはじめに
ものを忘れさせる薬
頭が良くなる薬は、あることはある
朝鮮人参やイチョウの効果
風邪薬はやる気を奪う?
眠っているあいだに、考えが整理される
酸化防止剤は老化防止剤
やる気を出すコツはたくさんある
第三章のまとめ
第四章 やりすぎが天才をつくる
第四章のはじめに
一〇〇〇億の細胞からつながる相手を選ぶ
受け手が主導権を握る
センスは記憶
頑固が頭を悪くする
モーツァルトでIQがあがる
天才とは、やりすぎてしまう人?
情報の捉えがたい洪水
新しい観点を得ることのすごさ
漢字テストは一〇〇点中二点だった
テストのたびに公式を導き出す
問題をひとつずつ解くこと
言葉の呪い
結果ではなくプロセス
第四章のまとめ
あとがき
池谷裕二
糸井重里
追加対談 海馬の旅
はじめに
誤解を招く=魅力がある
目的はひとつに決めない
脳には宗教をつくる回路がある
文庫版あとがき
池谷裕二
【内容紹介】
・「年をとるともの忘れがひどい」は間違い
⇒子供に比べて大人はたくさんの知識を詰め込んでいるので、知識を選び出すのに時間がかかるだけ。その証拠に、ド忘れしても正解を言われれば「あ、それだ!」とわかる。これは、脳に正しい情報が保存されている、つまり〈記憶〉できていることの証拠。
⇒子供はたくさんど忘れをするが、それを気にしない。大人は気にするので、余計に記憶力が落ちたかのように錯覚する。
⇒子供は周囲の世界を新鮮な目で見る。大人はマンネリ化した気分で見るから、驚きや刺激が少なくなり、印象に残らず記憶できなくなる。脳の機能低下のせいではない。
=子供のように新鮮な気持ちで生活することの重要性
⇒子供と大人では記憶の種類が違う。「経験を下敷きにして覚える」ことについては、大人になってからの方が発達している!
=大人になってから〈手を動かして記憶する〉ことの重要性
・30歳を過ぎると頭は爆発的によくなる
物事の間のつながりを発見する能力=推理・発見・創造性などのもとになる、脳のはたらきの基本にあたる能力
⇒30歳を過ぎてから爆発的に伸びる!
・旅は脳を鍛える
海馬は扁桃体(好き嫌いなどの感情を判断する場所)と隣り合っているので、扁桃体が活性化すれば海馬も活性化する=「好きなものほど覚えやすい」は科学的根拠がある
⇒感情が記憶力に影響を与える
⇒刺激の少ない退屈な環境にいると、海馬は一気に衰え、記憶力が低下する
⇒絶えず新規な刺激にさらされていれば、海馬は成長し、記憶力が向上する。特に、空間情報が海馬への刺激となる。
=旅は脳を成長させる絶好の機会!
・酸化防止剤で老化防止できる
人間も酸化するプロセスで年をとるのではないか、という仮説が提唱されている。事実、Nアセチルシステインという酸化防止剤が、死にゆく神経細胞を止めることがわかっている
⇒酸化防止剤で老化を予防できるかもしれない
【感想】
ここでご紹介したのは本書のごく一部です。話題が多岐にわたっており、それぞれ興味深い見解が述べられているので、どこを取り出して要約すべきか迷いました。池谷氏だけではここまで広範な話題を扱うことなどなかったと思います。この辺が糸井氏の手腕ですね。両者が協力し合って一人ではできないものをつくるのが共同作業の妙ですから、本書はあるべき対談本の姿を現しているといえるかもしれません。
酸化防止剤で老化予防というのは、今日では割とポピュラーになってきていますね。〈抗酸化サプリメントでアンチエイジング〉というのは、それほど珍しいものではなくなっています。それを5年前に予見していたのはすごいです。ちなみにメジャーな抗酸化サプリメントとしては、コエンザイムQ10やビタミンE、アルファリポ酸、ギンコなどがあります。
本書でもっとも感銘を受けたのは、「30歳を過ぎてから頭が爆発的に良くなる」という点です。「記憶力が悪くならない」という消極的なものなら聞いたことはあったのですが、「頭がよくなる」なんて言い切ってしまう本は初めてでした。「そうか、まだまだ頭はよくなるんだな」と勇気が湧いてきます。
もっと頭がよくなりたいと思っている方には、ぜひ読んでいただきたい一冊です。



